夜明けをまちきれずロビーにでると、守衛のような人がいた。一応念のためとおもい、「西湖（シーフー）で釣ってもいいですか？」ときくと、なんと無慈悲にも「不行、不行！（ダメダメ）」と激しく首をふるではないか！。いや、そんなはずはない！。日本にいる中国人の知人もいいと言ったし、杭州への列車で一緒だった日本人留学生も、西湖は釣りができると言っていた。列車内で筆談の相手だった、杭州に住んでいると言う中国人でさえ、西湖には大物がいると言って、我々を喜ばせてくれたではないか。きっと私の発音が良くなかったんだろう。
　こんどは懇願するような思いをこめて、メモ用紙に「釣魚」と大書し、再度たずねてみたが・・・・・・　　　同じ答が返ってくるのだった。

　ふくらはぎのあたりからすーッと力が抜けていく。

　えーッ、うッそー、ほんとーッ。ああ、聞かなきゃ良かった。おおいに釈然としないものが残ったが、ダメと言われたその前で釣るわけにもいかない。しかたなく、西湖５湖の一つ北里湖一週の散歩にでた。

　杭州飯店のすぐ前は、西湖である。西湖は周囲１５キロ程の湖で、蘇堤、白堤などの堤防によって５湖にわけられ、それぞれ北里湖、西湖、岳湖、西里湖、南湖と呼ばれている。
湖水はさほど美しくはないが、湖畔にはしだれ柳が植えられていて、昨夜の雨にぬれた若葉がいちだんとみずみずしい。あさもやの彼方にかすむ白堤は、水墨の名画をみるおもいだ。しだいに、ふたりの会話はすくなくなっていく。それは、この美しい風景にこころを奪われているためだけでは、もちろんない。互いのとなりをあるくものが、むくつけき釣友であることへの悔恨にほかならない。
　

水面の、あちこちにでるもじりを見ながら、無念のおもいで言葉少なく歩いていると、 「尊章守法禁止捕釣」 とかかれた看板があった。ああ、彼が言った事は、やっぱりほんとうだったのか。「捕釣」はいけなのか・・・　。そして、もうすこし行くと 「禁打捕水生動物」 と書かれている看板もあった。

　うちひしがれてホテルに帰ると、フロントに女性の服務員がいたので、もう一度聞いてみる。中国ではたとえおなじ事でも、人をかえ、何度もトライする事が重要です。

　「可以不可以釣魚（指さす）西湖？」

するとどうであろうか。にこやかな笑顔で、いろいろ人にたずねてくれて、西湖賓館（ホテル）付近へ行けば釣ることができる！、と教えてくれた。オオ、君は天使のごとくやさしい〜〜。私たちは、この感激のためになんども中国に足を運ぶのかも知れない（チトオオゲサカ）。
　われわれが狂喜したのは、言うまでもない。さっきまで、餌のマッシュポテトは「サラダにして食おうか」などといっていたが、即座に、魚類のためにきびしく管理し、決して人が食うてはならぬ旨かたく約束したのだった。